東京地方裁判所 平成2年(ワ)9803号 判決 1992年11月27日
東京都江東区亀戸二丁目一番一号
原告
株式会社チェンバース
建築設計事務所
右代表者代表取締役
橋田隆明
右訴訟代理人弁護士
長塚安幸
東京都豊島区南池袋一丁目二八番一号
被告
株式会社西武百貨店
右代表者代表取締役
水野誠一
東京都豊島区東池袋三丁目一番一号
被告
株式会社西洋環境開発
右代表者代表取締役
高橋熙明
右被告両名訴訟代理人弁護士
原後山治
同
近藤卓史
同
三宅弘
同
大貫憲介
東京都中央区銀座一丁目一六番一号
被告
東京テアトル株式会社
右代表者代表取締役
吉田政好
右訴訟代理人弁護士
下山博造
同
石川道夫
東京都豊島区東池袋三丁目一番一号
被告
株式会社菊竹清訓
建築設計事務所
右代表者代表取締役
菊竹清訓
右訴訟代理人弁護士
稲益賢之
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは、原告に対し、連帯して金一億円及びこれに対する平成二年八月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 被告ら
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和六二年五月一五日、被告東京テアトル株式会社(以下「被告東京テアトル」という。)から神奈川県厚木市内におけるレジャー性ショッピングセンターの企画案の作成を依頼され、甲第七号証の企画書(以下「原告企画書」という。)を作成した。
原告企画書は、同月二九日、原告から被告東京テアトルの代表者大友浩に手渡されたが、この企画書による企画は採用されるに至らなかった。
2 株式会社西武百貨店関西(平成元年六月一二日に被告株式会社西武百貨店に合併された。以下「西武百貨店関西」という。)、被告株式会社西洋環境開発(以下「被告西洋環境開発」という。)及び被告東京テアトルは、西武セゾングループとして、被告株式会社菊竹清訓建築設計事務所(以下「被告菊竹事務所」という。)に、乙第二号証の「六甲アイランド ウォーター フロント パーク内レジャーゾーン 事業計画書」(以下「被告計画書」という。)を作成させ、これを応募作として、昭和六三年四月二九日に公告された神戸市の六甲アイランドの南部レジャーゾーンの事業コンペに、西武百貨店関西の名義で応募し、当選した。
3 被告らは、被告計画書中の「ROKKO ISLAND WATER WONDER WORLD 5 全体パース(1)」(以下「被告図面(1)」という。)及び「ROKKO ISLAND WATER WONDER WORLD 6 全体パース(2)」(以下「被告図面(2)」といい、被告図面(1)及び同(2)を総称して「被告図面」という。)を原告企画書に依拠して作成したものである。
すなわち、西武百貨店関西、被告西洋環境開発及び同東京テアトルは、西武セゾングループに属しており、原告が原告企画書を被告東京テアトルの代表者大友浩に手渡した昭和六二年五月二九日当時、同被告は、右大友が中心となり、被告菊竹事務所を用いて、銀座に西武西洋ホテルを建設中で、その監理主体は被告西洋環境開発であったのであり、被告らは、容易に原告企画書にアクセスすることができたものであり、被告図面を原告企画書に依拠して作成したことは明らかである。
4 原告企画書と被告図面とは、内面的表現形式において、同一性ないし著しい類似性がある。
原告は、ショッピングとレジャーを人工運河で調和・統一させる試みが、世界中どこにもなかったので、<1>ショッピングをはじめとする多種多様な施設の集合体と外の場所とを明確に区切る、つまり水でプロジェクトの場を囲むことにより人々に内部空間を「特別な場所」「日常から離れた夢と欲求を満たすことのできる空間」を意識させる、<2>多種多様な各施設を明確に分離する、すなわち各ゾーンが十分独立性、独自性を有することができ、視覚的にそれぞれ最もふさわしいデザインを実現させる、<3>客の移動施設として水上バス(又は船)を走らせることで視覚的にも物理的にも各施設を有機的に結び付け、全体の調和と統一を保つ、<4>水のイメージを生かし、施設全体に潤いと安らぎを与える、<5>運河の水を消防用水や冷房冷却水として利用できるものとし、運河に多機能性をもたせる、<6>電波塔により衛星通信等による域内に情報通信の便宜を与える、<7>イベント施設等により文化エリアを提供する多機能施設を設けることとし、更に人工運河造成には莫大な費用がかかるため、船の安全航行には最小限どの程度の規模を要するか、予算の最小限はどの位か等も検討計算し、水路幅平均一三メートル、水深平均一・二メートルとする構想に基づいて、原告企画書を作成した。
原告企画書と被告図面とは、<1>近代建築工学上ショッピングセンターとレジャー施設が人工運河で結び付けられた例は、世界中どこにもないのに、そのようになされていること、<2>建物の屋根は赤色、水辺は水色、舗道は桃色、植栽はグリーン、メイン建物の壁は白色等のように、色彩と彩度が同一であること、<3>両者ともペン画であること、<4>両者とも運河で囲まれていること、<5>両者とも低層建築の屋根がベニス風の瓦であること、<6>両者とも、ショッピング施設、レジャー施設、博物館的なもの、イベント用の野外ホール、野外遊戯施設等の施設内容が同一であること、<7>人工運河の中の空間に配置された建物や通路と周囲の森とを調和させ、その水を交通手段、消防用水、施設用水等として多目的に利用できるようにしている点において、内面的表現形式として同一性ないし著しい類似性がある。
原告企画書と被告図面とで相違する、<1>敷地面積の広さと企画規模の大きさ、<2>その中に含まれる施設の種類、<3>運河の形状及び運河により仕切られた土地区画の形状、<4>パースの低層建築物の屋根瓦の色、<5>ゲートハウスの形状等は、微細な差異にすぎず、前記のような内面的表現形式としての同一性ないし類似性に影響を及ぼすものではない。
5 被告らが、原告企画書に依拠して、このように内面的表現形式として同一性ないし著しい類似性ある被告図面を作成する行為は、原告が原告企画書について有する翻案権を侵害するものであり、また被告らが、原告企画案の著作者である原告の表示をしないで、かつ原告企画書と同一性を欠く被告図面を作成する行為は、原告が原告企画書について有する氏名表示権及び同一性保持権を侵害するものであって、被告らには、この点について故意又は過失があったというべきである。
6 原告は、被告らが右著作権侵害行為により二七〇億円の利益を受けているから、著作権法一一四条一項により、その利益の額を損害賠償として請求することができるところ、右内金九〇〇〇万円の支払を求める。
また、原告は、被告らの著作者人格権侵害行為により損害を被ったので、その損害賠償として金一〇〇〇万円の支払を求める。
7 仮に被告図面の作成が著作権侵害に当たらないとしても、原告が原告企画書において人工運河の幅を平均一三メートルに、その深さを平均一・二メートルとしたのは、船の航行の安全性を考えた人工運河造成費の採算性に基づくものであるが、これは原告の研究に研究を重ねた結果であり、勝手に他人に真似をされてはならない重要な権利・利益であって、被告らが被告計画案においてこれの真似をすることは、原告の右のような権利・利益を侵害するものであり、被告らには故意又は過失があったというべきであるから、民法七〇九条により損害賠償責任があり、その損害額は一億円を下らない。
8 よって、原告は、被告らに対し、主位的に著作権及び著作者人格権の侵害、予備的に右7のとおりの不法行為による損害金として、連帯して金一億円及びこれに対する右行為の後である平成二年八月一四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告らの認否及び被告らの主張
1 被告らの認否
(一) 請求原因1につき、被告東京テアトルは、原告から原告主張の土地について何らかの図面が送付されてきたこと、原告主張の企画が採用に至らなかったことは認め、その余は否認する。その余の被告らは不知。
(二) 請求原因2のうち、当時の西武百貨店関西が神戸市の六甲アイランドの事業コンペに被告計画書を応募し、これが当選したこと及び西武百貨店関西が平成元年六月に被告西武百貨店に合併されたことは認めるが、その余について、被告西武百貨店、同西洋環境開発及び同菊竹事務所は否認し、被告東京テアトルは不知。
(三) 請求原因3ないし8は否認する。
2 被告らの主張
(一) 被告計画書は、原告企画書とは関係なく、全く独自に企画作成されたものである。
すなわち、神戸市主催の六甲プロジェクトの事業コンペは昭和六三年四月二九日に公告されたが、西武百貨店関西はこれを受けて同年五月株式会社インタープラン(以下「インタープラン社」という。)に全体の設計プランの作成を依頼し、インタープラン社は同年六月に独自に右設計プランを作成し、株式会社西武百貨店関西に交付した。
なお、インタープラン社は、原告企画書が作成される以前の昭和六〇年から、ソウルランド、神戸大規模レジャー施設、サンアヤウタパーク等、各地で水路や運河を利用した設計を多数手がけており、右六甲プロジェクトの設計プランもまた当初から水路を利用したものであった。
西武百貨店関西は、右設計プランに関し、これとは別に、株式会社デザインリサーチの代表取締役菊竹清訓に対し、独自に基本構想のスケッチの作成を依頼し、同人も、原告企画書とは全く関係なく独自に、格子型の水路による基本構想のスケッチを作成し、西武百貨店関西に渡した。西武百貨店関西は、右のスケッチをもとに再度株式会社インタープランに右の設計プランについて格子型の水路の形態等、各種の変更をさせて、神戸市に提出する最終的な事業計画書の図面を作成させた。
西武百貨店関西は、インタープラン社による右図面を受けて、昭和六三年七月二六日、神戸市に対し被告計画書を提出したところ、同年九月五日、被告計画書が事業コンペにおいて採用され、同月三〇日、西武百貨店関西は神戸市との間に六甲プロジェクト事業に関する契約を締結した。翌平成元年六月に西武百貨店関西は被告西武百貨店に合併され、被告西武百貨店がその事業を承継し、さらに同年九月、被告西洋環境開発は被告西武百貨店からその事業遂行を依頼され、これ以後その事業に関与することとなった。
このように、被告計画書は、原告企画書とは関係なく、全く独自に企画作成されたものである。
(二) 被告図面は、一見して明らかなように、原告企画書とは、その構図、コンポジション、対象物たる運河、地域、各ゾーン内の各施設、建物の形状が全く異なっており、被告図面を見て原告企画書を直接想起、感得することは不可能であり、被告図面が原告企画書を翻案したものでないことは明らかである。
第三 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりである。
理由
一 原告において、被告図面が原告が原告企画書について有する翻案権を侵害するものである旨主張するので、まず、原告企画書と被告図面とを対比して、表現としての同一性ないし類似性があるか否かを検討し、被告図面が原告企画書の翻案であるということができる程度に両者の間にそれぞれの著作者が表現しようとした具体的な観念や思想の構成の同一性ないし類似共通性があるか否かについて判断する。
1 弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第七号証によれば、原告企画書においては、原告の企画したレジャー性ショッピングセンターの全体を表した図としては、同号証の一及び二枚目の図が最も分かり易いものであって、同号証の一枚目の図は別紙図面(一)のとおりであり、原告企画書の二枚目の図面は、別紙図面(二)のとおりであること(以下、別紙図面(一)を「原告図面(一)」等と、別紙図面(一)(二)を総称して「原告図面」という。)、原告図面(一)はパース図で、同(二)は縮尺一〇〇〇分の一の配置図であること及び原告図面(一)と同(二)は、図面の性質が異なることから当然に図法、構図及び色彩等は異なるが、対象としているものは同一の建築物であることが認められる。
また、成立について当事者間に争いのない乙第二号証によれば、被告図面(1)は別紙図面(三)のとおりであり、被告図面(2)は別紙図面(四)のとおりであって、同じウオーターワンダーワールドを、被告図面(1)は海側から、同(2)は陸側から描いたパース図であって、建物等描かれた対象物、図法、構図、色彩も同一であり、受ける印象も全く同じであることが認められる。
2 全体的な構成をみると、原告図面においては、周囲が森林で、東西にやや長い楕円状の敷地がほぼ三つの部分に分けられ、テレビ塔を有する低層の大きなビル状の建物を中心に、東側部分には東西方向に放射状に延びた四棟の低層で細長い建物が、西側部分には広い面積の駐車場が描かれ、また水路が、東側の四棟の建物の周囲を取り囲むように描かれているほか、中央部のビルと西側駐車場との間に池状にあるように描かれている。
これに対し、被告図面においては、海辺近くの、横長の長方形の敷地に、海辺側はかなりの幅をもつプロムナードとし、その陸側の土地は周囲に帯状の土地を残して、中央部が二列三行に六つのほぼ正方形の区画に分けられ、各区画の周囲にほぼ一定した幅の水路が巡らされ、その結果各区画が島のようになっており、その六区画を二区画と四区画に分けるように陸側から海辺側のプロムナードまで一直線の幅の広い通路がある状況が描かれ、各島や周囲の帯状の土地には各種の建物、施設が描かれている。
3 甲第七号証(原告企画書)や乙第二号証(被告計画書)を参照しつつ、原告図面及び被告図面に記載されたそれぞれの内容をみると、次のとおりである。
(一) 建物等
原告図面の中心の大きなビル状の建物は、中央部の敷地の敷地一杯に南北に翼を広げたような形状の、二ないし三階建ての建物として描かれ、TVイベントコンベンションホール、AV会議室、博物館、管理事務室等にあてられるものと表示されている。また、東側の敷地の東西方向に放射状に延びた四棟の細長い建物は、各その両端に平面がほぼ正方形で四注屋根の部分を有し、各棟の東端の正方形の部分は水上バス発着所とそれぞれタイプの違うレストランに、中間の細長い部分はそれぞれ果物と野菜のマーケット、肉のマーケット、花と園芸のマーケットにあてられるものとして描かれている。
更に、前記四棟の細長い建物の両端の平面正方形の部分は、それぞれ隣接する棟の同じ部分と透明なカマボコ状の屋根を有する細長い歩廊様のもので結ばれており、四棟の建物と歩廊様のものとに囲まれた三つの空地は、中央のものがバーベキューテラス及びイベントプラザとして、北側及び南側のものが庭園として描かれている。
一方、被告図面においては、大きな建物としては、水路の外側の帯状の土地のうち、陸側(北側)の土地に、海辺側へ一直線の幅の広い道路を跨ぐ大きな吹き抜けがあり、中央部が高く左右へ階段状に低くなるビル(ホテル、レストラン、店舗等からなるゲートハウス)と円形のドーム状の建物(アクアシアター)が描かれ、中央部の六つの区画の内、北東側の区画に扇形の屋根のある野外劇場が、同区画から南隣の区画にかけて巨大な透明のピラミッド状の建造物が描かれている程度で、その他は水路の外側の帯状の土地の内西側の土地や中央部の六つの区画にはそれぞれ多数の種々の形状の小さい建物や大きな造波プール、中央に多数の島を配したプール、小型のプール、テニスコート等の施設が描かれている。
(二) 駐車場
原告図面においては、西側に、敷地全体の四分の一程度の面積で方形状に駐車場が描かれ、そこには駐車スペースを示す線が櫛の歯状に記載されている。
被告図面においては、水路外側の東側に屋根付立体駐車場が、北側に野外駐車場が、双方合わせても全体の一〇分の一にも満たない程度の面積で、細長い形で帯状に描かれている。
(三) 水路
原告図面では、東側の四棟の建物の周囲をほぼ扇状に取り囲むように、水路の幅が箇所により異なる等自然の地形をも利用したような形態で、しかも比較的広い幅で水上バスの通路としても使用される状況に描かれている。またこれとは別に駐車場と中央ビル部との間にも細長い池状のものが描かれている。
被告図面においては、六つの区画を仕切るように、ほぼ一定の幅で、格子状に直線的人工的なイメージであり、かつボート等の通路としても利用されている状況が描かれている。
4 色彩面からみると、原告図面(一)では、敷地周囲の森が濃緑色ないし黒色で、東側の細長い建物の屋根が赤色で、水路が青色で、東側の右建物及び中央部のビルの壁面並びに駐車場が白色ないし薄い黄色で、庭園や森の一部がレモン色で描かれているが、それぞれの色の部分がまとまって、しかも広い面積で塗られているため、全体的には、それぞれの色を基調とした部分に大きく分けられているかのような感じを与えている。原告図面(二)では、東側建物の屋根の赤色と水路の青色が目立ち、樹木等を表す緑色や一部地面を表す黄色が点在している程度である。
これに対し、被告図面では、海や水路や池等が薄い青色で、樹木等の植物が黄色、薄緑色ないし濃緑色で、一部地面や一部建物の屋根が黄土色又は赤色で、一部の地面や立体駐車場、階段形状の建物及びドーム形状の建物が白色で描かれているが、白色部分は主に周辺部であり中央部では海や水路や池等を表す薄い青色が広くまとまって塗られているほかは、広くまとまって塗られている色はなく、いろいろな色が各所に点在し、入り混じった感じを与えている。
5 以上の全体的な構成、記載された建物等の形状、大きさ及び数並びに色彩等を総合して全体的な印象をみると、原告図面は、水路に囲まれた四棟の細長い南欧風の建物と大きな近代的なビルからなる施設が丘陵地の森の中に描かれたもので、全体的には五棟の大きな建物からなるまとまった施設の斜視図と平面図という印象を受けるものである。
これに対し、被告図面は、海辺にある、水路で区切られた六つの島とそれを囲む帯状の土地に、多数のいろいろな様式、形状の大小の建物やプール等の施設がこまごまと、とりどりの色で描かれているため、多様な施設が計画的に組み合わされた地域の鳥瞰図という印象を受けるものである。
6 右のとおり認定した、全体的な構成、記載された建物等の形状、大きさ及び数、色彩並びに全体的な印象等の事実を総合すると、原告図面と被告図面とは外面に表現されたものが全く異なることは明白であり、描写の視点や技法は異なるが同一の対象あるいはこれに一部改変を加えたものを表現したといえる程の両者の表現内容の具体的構成の主要部分の一致性、対応性、類似性は全く認められない。そのため、被告図面を見ると、原告図面により表現された著作者の具体的な観念や思想の構成に思い至るなどという関係は認められない。また、原告図面以外の原告企画書の記載部分を合わせて検討しても、被告図面から、原告企画書に表現された著作者の具体的な観念や思想の構成に思い至るなどという関係を認めることができない。
したがって、原告企画書と被告図面との間に、それぞれの著作者が表現しようとした具体的な観念や思想の構成の同一性ないし類似共通性を有するものとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、翻案権侵害の主張は理由がない。
二 原告は、原告企画書と被告図面が内面的表現形式として同一ないし著しく類似している根拠として、近代建築工学上ショッピングセンターとレジャー施設が人工運河で結び付けられた例は、世界中どこにもないのに、そのようになされていること、人工運河の中の空間に配置された建物や通路と周囲の森とを調和させ、その水を交通手段、消防用水、施設用水等として多目的に利用できるようにしていることを主張しているが、仮にそのとおりとしてもこれらは原告企画書の表現から離れた抽象的な思想ないしアイディアそのものであって、被告図面において表現されたものが原告主張のとおりであったと仮定しても、これをもって原告のいう内面的表現形式の同一性ないし類似性があるということはできない。
また、原告は、原告企画書と被告図面の、建物の屋根、水辺、舗道、植栽、メイン建物の壁等を取り上げて、その色彩と彩度が同一であること、両者ともペン画であること、両者とも運河で囲まれていること、両者とも低層建築の屋根がベニス風の瓦であること、両者とも、ショッピング施設、レジャー施設、博物館的なもの、イベント用の野外ホール、野外遊戯施設等の施設内容が同一であることなどの点から、両者が内面的表現形式として同一ないし著しく類似している旨主張するが、原告主張にかかる箇所の色彩と彩度が同一であるか、両者の低層建築の屋根がベニス風の瓦であるか、両者のショッピング施設等の施設内容が同一であるかについてはにわかには断定できないところであるし、両者ともペン画である、あるいは運河で囲まれていると主張している点も、字句として表現したときに共通するにすぎないものであって、前記のとおり、原告企画書と被告図面とはいろいろな点において全く異なり、表現された著作者の具体的な観念や思想の構成の同一性ないし類似共通性がないことは明らかであって、原告の右主張は理由がない。
三 原告は、原告企画書における人工運河の幅及び深さにつき、原告が他人に真似をされてはならない重要な権利・利益を有するから、被告らが被告計画案においてこれの真似をすることは、原告の右のような権利・利益を侵害する旨主張するが、原告企画書における人工運河の幅及び深さが法律上保護され得る権利、利益であるとは直ちに認め難いばかりでなく、前記認定のとおり、原告企画書と被告図面とはいろいろな点において全く異なり、人工運河(水路)の幅及び深さについても、原告主張のように被告図面が原告企画書と同一ないし類似しているとはいえないから、その余について検討するまでもなく、原告の民法七〇九条に基づく右主張も理由がない。
四 以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 一宮和夫 裁判官 宍戸充)
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>
別紙図面(三)
<省略>
別紙図面(四)
<省略>